龍の天廊書斎

龍火のブログ。創作小説など置いてます。

それは言うなればくだらない嫉妬。

まるで温もりを知らない氷のようだと思った。
どこまでも冷たく、視るものを凍らせる凍てつく青、絶対の青。
確かその瞳に興味を持った事がきっかけで、私は彼についていく事を決めたのだったか。

……しかし今は見る影もなく、その瞳は熱にうかされている。

『………貴方様が恋煩い、ですか。それも一目惚れとは…らしくないですね』
「煩い。口を慎め」
……この男、どうやら部下の忍び笑いに気付かない程に落ち着かないらしい。



…何と言うか、こんなに余裕のない彼の姿を見るのは久し振りな気がする。
あの様子だと、自分が同じところをぐるぐると回り続けている事にも気付いてないのだろうか?……これはちょっと面白いかもしれない。
しばらく退屈しないで済みそうだ、などと思いつつ次に頭に浮かんだのは彼の片恋相手は何者か、という疑問だった。

色恋沙汰にはとんと疎い彼をここまでにする相手とはいったいどこの姫君なのだろうか。

絶世の美女?蠱惑的な妖女?
何にしろ見目麗しい姫に変わりはないだろう。そうでなければ朴念人が早々一目惚れなどする訳がないのだから。
『…………………何故かしら。少し、気に入らないわね』


忙しなく花など選んでいる主をちらりと見やり、
(…あんな姿なんか似合わないのに)

音をたてずに舌打ちした。



*かつての彼を取り戻すため、ただそれだけの為に彼女は謀略を巡らせる。


「…彼がこんなにも焦がれる花など、この手で燃やしてやれますように」

それが恋情だとも、嫉妬だとも気付かないまま。